「BOPビジネス」というものについて思うところ
2018年2月6日
途上国未電化家庭用太陽光システムファンド
きょう (もう昨日ですが),JICAで「SDGs時代における貧困層を巻き込んだ途上国発インクルーシブビジネス セミナー」なるものがあり,参加してきました.インクルーシブビジネスとは,BOP層の人々をインクルーシブにするということを強調した表現です.
プレゼンテーションをきいてわかったのは,「JICAに対する提言」を行う調査の結果報告だったということでした.また,フロアから発言した人のほとんどは研究者,大学の先生,コンサルタントで,BOPビジネスを実際にやっている人で発言したのはわたしだけでした.ということで,いろいろフラストレーションが残る(笑)ものでしたが,(ある程度わかっていたとはいえ) 援助関係者との認識の違いが浮き彫りになったという点では収穫でした.
以下,わたしの BOPビジネスに対する私見を,かいつまんでご紹介いたしましょう.
BOP層の人々のくらしと経済
BOP層の定義はともかく,彼らは「援助」で生きているわけではありません.彼らは彼らの周りの経済の中で生きているわけです.愉しいことも苦しいこともいろいろあるでしょうが,われわれと同じ人間です.いろいろ制約はあるかもしれませんが,ざっとその8割〜9割(印象ですが)は,人間としての生活を送っています.先進国の人の定めたBasic Human Needsに達しない人も多いわけですが,だからといって,生活のために何らかの仕事をして,ちゃんと欲しいものをその稼いだお金で買っています.その意味で「正常」で ある意味「健全」であるわけです.

BOPビジネスは,彼らの関与するビジネスであるわけですね.先進国のビジネスに彼らをインクルーシブする,というのは「おこがましい考え」で,彼ら自体がBOPビジネスを主体的に行っているわけです.途上国の村々のキオスクなどはその典型ですね.彼らは,みんな起業家でビジネスマンです (一方で,援助関係者は,コンサルも含め,自分でビジネスを行った経験のない人がほとんどです.博士号を持っている人は多いのですけどね).
もっとも,われわれが興味があるのは,「先進国企業が関与する」BOPビジネスであるわけですね (きょうのセミナーはそうではなく,むしろ途上国の社会企業を どうJICAがサポートしていくか?という点のようでした).わたしは,それが「経済原則に乗らない領域」であってはビジネスで行うことの意味がないと思っています.
わたしは,国際協力を,JICAのような公的援助機関と,民間企業が「ビジネス」を通じて行う場合の違い(一種の棲み分け)は,前述の「健全」な部分を「ビジネス」が担い,そうでないところを,公的機関がサポートするというアプローチであるべきだと思っています.再度繰り返しますが,BOP層の人々は貧しいですが,大多数は(やや歪んでいる面はありますが)健全な形で経済に組み込まれていると思います.その健全な部分が,ビジネスの対象となるわけですね.わたしの行うソーラーホームシステム(SHS)による電化という分野は,まさにそうです.

一方で,「まだ」健全な形で経済に取り込まれていない(外部不経済という言い方をすることもあります)部分には,公的機関の関与が必要となるでしょう.そして,それは徐々に「内部化」されていくことが望ましいでしょう (それが難しい分野もありますが).SHSの普及の初期段階に,(全額でなく) 初期費用の一部を公的資金で補助し,徐々にそれを撤廃していく,というようなアプローチですね.バングラデシュのSHSプログラムはそうなっています (きょうアジ研の人が,サステイナブルに(!)補助金に頼るビジネスを主張していましたが,「え?!」でした.外部不経済が解けない分野は,たしかに公的資金で行うべきですが,それに「ぶらさがる」ビジネスのことなのでしょうか?).
ただ,この「健全な」分野に,不用意な「介入」が行われるケースもあります.わたしのSHSの分野では,たとえばミャンマーの政府による「介入」のケース や,大企業のケース などがあります.通常,市場で販売されている製品が,無償で配布されたなら,それは「健全な市場を破壊」する暴挙です.横で無償配布されているのに,誰がお金を出して購入するでしょう?善意に解釈するなら,それを行った(大きな力を持った)人は「いいことをした」と信じて疑わなかったのでしょうが... このような場合,よほど慎重に提供する対象やその方法を選ばなければなりませんが,すくなくともわたしの見る限りは,そのような「配慮」に関する記述は見当たりませんでした.
わたしの知っているインドネシアの例では,政府が無償配布した大量のSHSが,すぐに市場に横流しされたり,使えなくなってもだれもメインテナンスをしない状態が多数みられたそうです.自分でお金を出して買わなかったものに,人々は意味や価値を見いださないのでしょう.「施し」は人の尊厳を傷つけます.さらには「援助慣れ」というイヤな言葉もあります (JICAの人は痛感していると思います).一方で,ビジネスは,あくまで対等なディールであることを再認識したいものです.
いろいろ批判的な物言いもしましたが(比較することで論点が明確化できるものですから)わたしは,ビジネスという手法を使うことの意味は,このようなところにあると思っています.
最後に「SDGsビジネス」という言い方も 最近目にしますので,それについても一言.
SDGsは,国連の定めた持続可能な開発目標(SDGs)で,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された 2016年から2030年までの国際目標です.持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っています.本当は先進国も対象なのですが,主眼は途上国においたものです.
日本で,BOPビジネス→SDGsビジネス と使われ方がシフトした背景には,JICAがそのように日本企業支援スキームの名前を変えた(実は,その裏にはBOPビジネスの成功例が少なく,より高所得者層を目指すものを含めれば,実績が上がるだろうという目論みがあります)ことがあるのですが,同時に,コンセプトを 一段階上げた(?)というような感じで話される人も多いようです.
わたしは,SDGsに異を唱えるつもりはまったくないのですが,途上国開発というものの主軸であるビジネスや経済という面から見たとき,SDGsビジネスという言い方は,かなりミスリーディングだと思います.盲目的に「お墨付き」として使うのは,ちょっといただけません.
「地球上の誰一人として取り残さない」というコンセプトは「美しい」し,政府や援助機関の方針として掲げる意味はあると思います.しかし「ビジネス」とは相容れない側面が強いでしょう.ビジネスでは,上記のように「健全な」分野で,さらに「ターゲットを絞った」アプローチが採られるでしょう.これがわたしの「違和感」です.
また,たとえば途上国の経済を動かし,開発に大きく寄与してきた製品に「携帯電話」があります.これを使ったフィンテックなども,イノベーションとして語られることも多いのです.ですが,この「人々を動かしてきた(人と繋がっていたいという)欲求」は,SDGsの17のゴールには,なぜか含まれていません.わたしは,このような「人々を動かす」ものをトリガーとして効果的に活用することこそ,SDGs達成への強力なアプローチだと思っています.
わたしのビジネスでは,それが TVへの欲求 になるわけですね.
松尾 直樹
プレゼンテーションをきいてわかったのは,「JICAに対する提言」を行う調査の結果報告だったということでした.また,フロアから発言した人のほとんどは研究者,大学の先生,コンサルタントで,BOPビジネスを実際にやっている人で発言したのはわたしだけでした.ということで,いろいろフラストレーションが残る(笑)ものでしたが,(ある程度わかっていたとはいえ) 援助関係者との認識の違いが浮き彫りになったという点では収穫でした.
以下,わたしの BOPビジネスに対する私見を,かいつまんでご紹介いたしましょう.
BOP層の人々のくらしと経済
BOP層の定義はともかく,彼らは「援助」で生きているわけではありません.彼らは彼らの周りの経済の中で生きているわけです.愉しいことも苦しいこともいろいろあるでしょうが,われわれと同じ人間です.いろいろ制約はあるかもしれませんが,ざっとその8割〜9割(印象ですが)は,人間としての生活を送っています.先進国の人の定めたBasic Human Needsに達しない人も多いわけですが,だからといって,生活のために何らかの仕事をして,ちゃんと欲しいものをその稼いだお金で買っています.その意味で「正常」で ある意味「健全」であるわけです.


BOPビジネスは,彼らの関与するビジネスであるわけですね.先進国のビジネスに彼らをインクルーシブする,というのは「おこがましい考え」で,彼ら自体がBOPビジネスを主体的に行っているわけです.途上国の村々のキオスクなどはその典型ですね.彼らは,みんな起業家でビジネスマンです (一方で,援助関係者は,コンサルも含め,自分でビジネスを行った経験のない人がほとんどです.博士号を持っている人は多いのですけどね).

もっとも,われわれが興味があるのは,「先進国企業が関与する」BOPビジネスであるわけですね (きょうのセミナーはそうではなく,むしろ途上国の社会企業を どうJICAがサポートしていくか?という点のようでした).わたしは,それが「経済原則に乗らない領域」であってはビジネスで行うことの意味がないと思っています.
わたしは,国際協力を,JICAのような公的援助機関と,民間企業が「ビジネス」を通じて行う場合の違い(一種の棲み分け)は,前述の「健全」な部分を「ビジネス」が担い,そうでないところを,公的機関がサポートするというアプローチであるべきだと思っています.再度繰り返しますが,BOP層の人々は貧しいですが,大多数は(やや歪んでいる面はありますが)健全な形で経済に組み込まれていると思います.その健全な部分が,ビジネスの対象となるわけですね.わたしの行うソーラーホームシステム(SHS)による電化という分野は,まさにそうです.

一方で,「まだ」健全な形で経済に取り込まれていない(外部不経済という言い方をすることもあります)部分には,公的機関の関与が必要となるでしょう.そして,それは徐々に「内部化」されていくことが望ましいでしょう (それが難しい分野もありますが).SHSの普及の初期段階に,(全額でなく) 初期費用の一部を公的資金で補助し,徐々にそれを撤廃していく,というようなアプローチですね.バングラデシュのSHSプログラムはそうなっています (きょうアジ研の人が,サステイナブルに(!)補助金に頼るビジネスを主張していましたが,「え?!」でした.外部不経済が解けない分野は,たしかに公的資金で行うべきですが,それに「ぶらさがる」ビジネスのことなのでしょうか?).
ただ,この「健全な」分野に,不用意な「介入」が行われるケースもあります.わたしのSHSの分野では,たとえばミャンマーの政府による「介入」のケース や,大企業のケース などがあります.通常,市場で販売されている製品が,無償で配布されたなら,それは「健全な市場を破壊」する暴挙です.横で無償配布されているのに,誰がお金を出して購入するでしょう?善意に解釈するなら,それを行った(大きな力を持った)人は「いいことをした」と信じて疑わなかったのでしょうが... このような場合,よほど慎重に提供する対象やその方法を選ばなければなりませんが,すくなくともわたしの見る限りは,そのような「配慮」に関する記述は見当たりませんでした.
わたしの知っているインドネシアの例では,政府が無償配布した大量のSHSが,すぐに市場に横流しされたり,使えなくなってもだれもメインテナンスをしない状態が多数みられたそうです.自分でお金を出して買わなかったものに,人々は意味や価値を見いださないのでしょう.「施し」は人の尊厳を傷つけます.さらには「援助慣れ」というイヤな言葉もあります (JICAの人は痛感していると思います).一方で,ビジネスは,あくまで対等なディールであることを再認識したいものです.
いろいろ批判的な物言いもしましたが(比較することで論点が明確化できるものですから)わたしは,ビジネスという手法を使うことの意味は,このようなところにあると思っています.
最後に「SDGsビジネス」という言い方も 最近目にしますので,それについても一言.
SDGsは,国連の定めた持続可能な開発目標(SDGs)で,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された 2016年から2030年までの国際目標です.持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っています.本当は先進国も対象なのですが,主眼は途上国においたものです.
日本で,BOPビジネス→SDGsビジネス と使われ方がシフトした背景には,JICAがそのように日本企業支援スキームの名前を変えた(実は,その裏にはBOPビジネスの成功例が少なく,より高所得者層を目指すものを含めれば,実績が上がるだろうという目論みがあります)ことがあるのですが,同時に,コンセプトを 一段階上げた(?)というような感じで話される人も多いようです.
わたしは,SDGsに異を唱えるつもりはまったくないのですが,途上国開発というものの主軸であるビジネスや経済という面から見たとき,SDGsビジネスという言い方は,かなりミスリーディングだと思います.盲目的に「お墨付き」として使うのは,ちょっといただけません.
「地球上の誰一人として取り残さない」というコンセプトは「美しい」し,政府や援助機関の方針として掲げる意味はあると思います.しかし「ビジネス」とは相容れない側面が強いでしょう.ビジネスでは,上記のように「健全な」分野で,さらに「ターゲットを絞った」アプローチが採られるでしょう.これがわたしの「違和感」です.
また,たとえば途上国の経済を動かし,開発に大きく寄与してきた製品に「携帯電話」があります.これを使ったフィンテックなども,イノベーションとして語られることも多いのです.ですが,この「人々を動かしてきた(人と繋がっていたいという)欲求」は,SDGsの17のゴールには,なぜか含まれていません.わたしは,このような「人々を動かす」ものをトリガーとして効果的に活用することこそ,SDGs達成への強力なアプローチだと思っています.
わたしのビジネスでは,それが TVへの欲求 になるわけですね.
松尾 直樹